大手監査法人出身の公認会計士(第47928号)・税理士(第159175号)が監修。発注側・受注側の双方のインボイス対応を年間100件以上サポートする立場から、免税事業者と取引する際の実務対応を解説します。
免税事業者の外注先・仕入先がいる発注側に向けて、仕入税額控除への影響と取引判断を実務目線で解説します。この記事を読めば、自社がどれだけ損をするのかを数字で把握でき、値引き交渉で違法にならない正しい進め方まで判断できます。
🏆 結論:経過措置で当面は7割控除できる、ただし一方的な値引きは違法リスク
免税事業者から仕入れても、経過措置により当面は消費税相当額の一定割合を控除できます。割合は2026年10月から70%に変わり、段階的に下がって2031年10月に廃止されます。控除できない分は発注側のコスト増になりますが、それを理由に一方的に値引きを強いると独占禁止法・下請法違反になるおそれがあります。取引を続けるか、登録を依頼するか、価格を見直すかは、相手と協議のうえ慎重に判断する必要があります。
免税事業者と取引すると発注側はどうなるか
取引先が免税事業者(適格請求書発行事業者でない事業者)の場合、その取引先からは適格請求書(インボイス)を受け取れません。すると発注側は、原則としてその仕入れにかかる消費税を控除できなくなります。インボイス制度の全体像は「フリーランスのインボイス完全ガイド」で解説しています。
仕入税額控除とは
仕入税額控除とは、売上で預かった消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を差し引いて納税額を計算する仕組みです。インボイスがないと、この「差し引き」ができず、発注側の消費税負担が増えます。
本来控除できるはずの金額が控除できない
たとえば免税事業者から110万円(税込)を仕入れた場合、本来は10万円の消費税を控除できます。しかしインボイスがないと、経過措置がなければこの10万円を1円も控除できず、まるまる発注側の負担増になります。
仕入税額控除の経過措置スケジュール
急な負担増を防ぐため、免税事業者からの仕入れでも一定割合を控除できる経過措置が設けられています。令和8年度税制改正で、この経過措置は段階化・延長されました。
📢 令和8年度改正で2026年10月から70%に
当初は2026年10月から控除割合が50%に下がる予定でしたが、令和8年度税制改正で段階化され、まず70%からのスタートに緩和されました。経過措置の終了も2031年10月に延びています。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日〜 | 控除不可(廃止) |
※最新の確定情報は国税庁サイトでご確認ください。経過措置の適用には帳簿への記載が必要です(後述)。
負担増を数字で把握する【影響シミュレーション】
免税事業者から年間どれくらい仕入れているかで、負担増は変わります。税込110万円(消費税相当10万円)の仕入れを例に、控除できない金額を時期別に示します。
🧮 税込110万円(消費税10万円)の仕入れの場合
控除できない額 = 消費税相当額 ×(1 − 控除割合)
| 時期 | 控除割合 | 控除できない額(コスト増) |
|---|---|---|
| 〜2026年9月 | 80% | 2万円 |
| 2026年10月〜 | 70% | 3万円 |
| 2028年10月〜 | 50% | 5万円 |
| 2031年10月〜 | 0% | 10万円 |
※概算です。発注側が本則課税の場合の影響です。簡易課税・2割特例の場合は、そもそも実際の仕入税額を使わないため、この影響を受けません。
💡 実務のポイント
発注側が簡易課税や2割特例を使っているなら、取引先が免税事業者でも自社の納税額は変わりません。みなし仕入率や売上税額だけで計算するためです。弊所では、発注側の課税方式を確認したうえで「そもそも影響がないケース」と「本則課税で実際に負担増になるケース」を切り分けてご案内しています。自社の課税方式の選び方は「インボイス2割特例完全ガイド」も参考になります。
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料金・サービスはこちらから →取引を続けるかどうかの判断
免税事業者の取引先とどう付き合うか、発注側には主に次の選択肢があります。
- そのまま取引を続ける(経過措置で当面は一定割合を控除)
- 取引先にインボイス登録を依頼する(登録すれば満額控除に戻る)
- 価格を協議のうえ見直す(控除できない分を双方で調整)
- 取引先を課税事業者に切り替える(最終手段)
多くの場合、いきなり取引を打ち切るのではなく、まず取引先と話し合うのが現実的です。取引先が登録を検討する際は「インボイス登録すべきか判断する方法」や「インボイス登録番号の取得方法」を案内すると、スムーズに進みます。
値引き交渉で違法にならないための注意点
ここが発注側にとって最も重要な落とし穴です。控除できない分を取引先に負担させようとして、一方的に値引きを強いると法律違反になるおそれがあります。
⚠️ 一方的な買いたたきは独占禁止法・下請法違反のおそれ
「インボイスがないなら消費税分はカット」と一方的に通告し、取引先に不利益を押し付ける行為は、独占禁止法上の優越的地位の濫用や、下請法上の買いたたきに当たるおそれがあります。発注側のほうが立場が強い場合は特に注意が必要です。公正取引委員会も注意喚起しています。
やってよい交渉・やってはいけない交渉
| OK(協議に基づく) | NG(一方的) |
|---|---|
| 双方が納得して価格を再設定する | 一方的に消費税分を支払わない |
| 登録の有無で取引条件を事前に相談する | 登録しないなら取引停止と脅す |
| 経過措置の範囲で負担を分担する | 著しく低い価格を押し付ける |
※判断に迷う場合は、税理士や公正取引委員会の相談窓口に確認すると安全です。
経過措置を使うときの帳簿記載
経過措置で控除を受けるには、発注側の帳簿に一定の記載が必要です。これを怠ると、税務調査で経過措置の適用を否認される可能性があります。
🧮 帳簿に残す記載例
「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ(経過措置適用)」などと帳簿に記載します。区分記載請求書等の保存もあわせて必要です。会計ソフトを使えば、税区分の設定で自動的に処理できます。
業種によって免税事業者との取引の多さは異なります。建設業の一人親方や、フリーランスへの外注が多い業種では特に影響が大きくなります。業種別の事情は「業種別の確定申告ガイド」も参考になります。
確定申告ドットコムのサポート実例
弊所では、発注側の影響試算から帳簿処理・取引先対応まで一貫してサポートしています。実際の対応例をご紹介します。
実例1:年商3,000万円のWeb制作会社(料金:年148,000円)
免税事業者のフリーランスへの外注が年800万円あり、本則課税のため負担増が見込まれました。経過措置の控除割合に応じた影響を試算し、外注先への登録依頼と価格協議を段階的に進める方針を設計。一方的な値引きを避け、取引関係を維持しました。
実例2:年商1,500万円の個人事業の編集者(料金:年98,000円)
本則課税から簡易課税へ切り替えることで、免税事業者への外注による影響を実質的に受けない構造に変更。発注側の課税方式を見直すだけで負担増を回避できた好例です。
実例3:年商800万円の小規模工務店(料金:年89,000円)
免税事業者の一人親方との取引が中心でしたが、発注側が2割特例を使っていたため自社の納税額には影響なし。帳簿記載のみ整備し、取引先に余計な負担を求めずに済みました。課税方式の確認が結論を左右した事例です。
よくある質問
まとめ:まず自社の課税方式を確認、交渉は協議ベースで
取引先が免税事業者でも、発注側が簡易課税や2割特例なら影響はありません。本則課税の場合は経過措置で当面7割を控除でき、割合は段階的に下がって2031年10月に廃止されます。控除できない分はコスト増ですが、それを理由に一方的な値引きを強いると違法リスクがあるため、価格や取引の見直しは必ず協議ベースで進めてください。自社の影響や課税方式の選び方に迷う場合は「消費税の申告は税理士に依頼すべき?」もあわせてご確認ください。正しく対応すれば、負担増を抑えつつ取引関係も守れます。
📋 この記事のポイント
- 免税事業者からの仕入れはインボイスがなく原則控除できない
- 経過措置で当面は一定割合を控除可能(2026年10月から70%)
- 2028年10月50%、2030年10月30%、2031年10月廃止の予定
- 発注側が簡易課税・2割特例なら影響を受けない
- 一方的な値引きは独占禁止法・下請法違反のおそれ
- 価格・取引の見直しは協議ベースで進める
- 経過措置の適用には帳簿への記載が必要
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