開業届とは?提出する意味とメリット
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。新たに事業を開始したとき、納税地を管轄する税務署長に提出する義務があります。ただし、提出しなくても罰則やペナルティはありません。
では、なぜ提出するのか。開業届を出すことで得られる主なメリットは以下のとおりです。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 青色申告ができる | 青色申告承認申請書とセットで提出すれば、最大65万円の特別控除が使える |
| 屋号つきの銀行口座が開設できる | 「○○デザイン事務所」など屋号名義の口座を作れる |
| 小規模企業共済に加入できる | フリーランスの退職金制度。掛金は全額所得控除 |
| 融資・補助金の申請に使える | 日本政策金融公庫の創業融資や各種補助金で「開業届の控え」が必要 |
| 事業用クレジットカードが作れる | ビジネスカードの審査で開業届の提出が求められることがある |
失業手当(雇用保険の基本手当)を受給中の方は注意が必要です。開業届を提出すると「就職した」とみなされ、基本手当の受給資格を失う可能性があります。退職後に起業を考えている方は、失業手当の受給終了後に開業届を提出するのが一般的です。ハローワークに事前に相談してください。
開業届の書き方|全記入欄を記入例つきで解説
開業届は1枚の書類で、記入自体は10分程度で終わります。国税庁のWebサイトからPDFをダウンロードしてパソコンで入力するか、税務署で用紙をもらって手書きで記入します。e-Taxソフト(WEB版)からオンラインで作成・提出することも可能です。
① 提出先の税務署名・提出日
左上に提出先の税務署名と提出日を記入します。税務署名は、自宅住所(納税地)を管轄する税務署です。国税庁の「税務署の所在地などを知りたい方」ページで住所を入力すれば、管轄税務署が検索できます。
② 納税地
「住所地」「居所地」「事務所等」から該当するものを選びます。自宅で事業を行う場合は「住所地」を選択し、自宅住所を記入します。自宅とは別に事務所を構えている場合でも、原則は「住所地」が納税地です。事務所を納税地にしたい場合は、別途「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」を提出します。
③ 氏名・生年月日・個人番号(マイナンバー)
戸籍上の正しい氏名、生年月日を記入します。個人番号(マイナンバー)欄には12桁の番号を記載してください。マイナンバーが分からない場合は、市区町村で「マイナンバー入りの住民票の写し」を取得すれば確認できます。
④ 職業・屋号
職業欄には具体的な職業名を記入します。「プログラマー」「Webデザイナー」「ライター」「コンサルタント」「配達員」「美容師」など、事業内容が伝わる名称にしましょう。
職業欄の記載は個人事業税に影響します。個人事業税は「法定業種」に該当する場合に課税され、税率は3~5%です。たとえば「プログラマー」は法定業種に該当しないと判断されることが多く、個人事業税がかからない可能性があります。一方、「デザイン業」は法定業種に該当し税率5%です。職業名は正直に書くべきですが、曖昧な表現(「フリーランス」「自営業」等)は避け、具体的な業務内容が伝わるように書いてください。
屋号欄は任意です。屋号が決まっていれば記入し、決まっていなければ空欄で提出して問題ありません。後から屋号を追加する場合は、確定申告書に屋号を記載すれば登録されます。
個人事業税とは?対象業種・税率一覧と計算方法をわかりやすく解説⑤ 届出の区分・所得の種類
新規開業の場合は「開業」に丸をつけます。所得の種類は、ほとんどの方が「事業(農業)所得」を選択します。不動産の賃貸業を始める場合は「不動産所得」、山林業の場合は「山林所得」を選んでください。
⑥ 開業日
事業を開始した日を記入します。「事業を開始した日」に法律上の明確な定義はなく、「事業を始めた日」「初めて報酬を得た日」「事務所を構えた日」など、事業主が自分で判断して設定できます。
開業日は戦略的に設定できます。個人事業税は開業日から12月31日までの月数で月割計算されるため、年の後半に開業すると初年度の個人事業税が安くなります。また、開業日が1月1日~1月15日の場合と1月16日以降の場合で、青色申告承認申請書の提出期限が変わります(前者は3月15日まで、後者は開業日から2か月以内)。開業準備段階の経費を初年度に計上したい場合は、実際に準備を始めた日を開業日にするのも一つの方法です。
⑦ 届出書の提出の有無
「青色申告承認申請書」と「消費税に関する届出書」の提出の有無を記入します。青色申告承認申請書を同時に提出する場合は「有」に丸をつけましょう。消費税の届出書については、2年前の課税売上高が1,000万円以下の方は基本的に「無」で問題ありません。
⑧ 事業の概要
どんな事業を行うのか、具体的に記入します。「Webサイトの制作・運営」「記事の執筆・コンテンツ制作」「税務・会計のコンサルティング」「飲食店の経営」など、収入源がイメージできる記載にしてください。複数の事業がある場合はすべて記入します。
⑨ 給与等の支払の状況
従業員や家族に給与を支払う場合のみ記入します。一人で事業を行う方は空欄でOKです。家族に青色事業専従者給与を支払う予定がある場合は、「専従者」の人数を記入し、「税額の有無」を選択します(月給88,000円未満なら「無」)。
青色事業専従者給与とは?届出の書き方と家族に払える上限額開業届と同時に提出すべき届出書5つ
開業届と一緒に提出しておくべき届出書があります。特に青色申告承認申請書は、提出期限を過ぎるとその年の青色申告ができなくなるため、開業届とセットで出すのが鉄則です。
| 届出書 | 提出期限 | 対象者 |
|---|---|---|
| 青色申告承認申請書 | 開業日から2か月以内(1月15日以前開業は3月15日まで) | 全員(提出しないと白色申告になる) |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 開業日から2か月以内 | 家族に給与を支払う方 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設日から1か月以内 | 従業員や専従者に給与を支払う方 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 随時(承認後から適用) | 従業員10人未満の事業主(源泉所得税の納付を年2回にできる) |
| 消費税課税事業者選択届出書 | 開業年の12月31日まで(開業年から適用の場合) | 自ら課税事業者を選択したい方(輸出業など還付を受けたい場合) |
一人で事業を行う方は、①開業届と②青色申告承認申請書の2枚だけ提出すれば完了です。家族に手伝ってもらい給与を払う場合は③④⑤も追加で提出します。これら全部まとめて1回で提出できるので、税務署に行くのは1回で済みます。e-Taxならすべてオンラインで完結します。
開業届の提出方法3つ
① e-Tax(オンライン提出)── おすすめ
e-Taxソフト(WEB版)の「マイページ」から開業届を作成・提出できます。マイナンバーカードが必要ですが、24時間提出可能で税務署に行く手間がありません。送信後の受信通知が提出の証拠として残るため、収受日付印が廃止された現在では最も確実な方法です。
② 郵送
記入済みの開業届を、管轄税務署宛に郵送します。「信書」扱いになるため、普通郵便またはレターパックで送付してください(ゆうパック・宅配便は不可)。2025年1月以降、控えへの収受日付印の押なつは廃止されましたが、返信用封筒を同封すれば「リーフレット」(受付日・税務署名が記載された書面)が返送されます。
③ 税務署窓口への持参
管轄税務署の窓口に直接持参します。受付時間は平日8:30~17:00です。時間外でも、税務署に設置された「時間外収受箱」に投函できます。窓口で提出した場合、希望すればリーフレットを受け取れます。
どの方法で提出しても、開業届の控えは自分で作成・保管してください。2025年1月以降、収受日付印は廃止されています。e-Taxの受信通知、または自分で作成した控えのコピーが提出証明になります。融資申請や口座開設の際に提出を求められるため、大切に保管しておきましょう。
提出期限は「開業日から1か月以内」
開業届の提出期限は、現行ルールでは開業の事実があった日から1か月以内です。ただし、遅れて提出しても罰則はなく、受け付けてもらえます。
【2026年1月~の法改正】提出期限が変更になります
2026年(令和8年)1月1日以降に開業する方は、提出期限が「事業を開始した日の属する年分の所得税確定申告期限まで」に変更されます。たとえば2026年6月1日に開業した場合、2027年3月15日(月)が提出期限です。2025年中に開業する方は従来どおり「開業日から1か月以内」が期限です。
期限が延びたとはいえ、開業届は早めに出すのが鉄則です。理由は青色申告承認申請書の期限は「開業日から2か月以内」のまま変わらないためです。開業届を後回しにすると、青色申告承認申請書も出し忘れるリスクが高まります。開業届と青色申告承認申請書はセットで提出する習慣をつけてください。
開業届の注意点
扶養から外れる可能性
配偶者や親族の扶養に入っている方が開業届を提出すると、扶養の判定に影響する場合があります。所得税の扶養控除は「合計所得金額48万円以下」が要件のため、事業所得が48万円を超えると扶養から外れます。健康保険の被扶養者の認定基準は保険者によって異なるため、勤務先に確認してください。
失業手当との関係
退職後に雇用保険の基本手当を受給している方が開業届を出すと、「就職した」とみなされ受給資格を失う可能性があります。再就職手当の要件を満たす場合は、開業届の提出と同時に再就職手当を申請できる場合もあるため、ハローワークに事前相談することをおすすめします。
都道府県への届出も必要
開業届は税務署(国税)への届出ですが、別途、都道府県税事務所への届出(事業開始等届出書)も必要です。個人事業税は都道府県税のため、こちらの届出を出さないと個人事業税に関する通知が届かなくなる可能性があります。自治体によってはWebで提出できるところもあります。
都道府県税事務所への届出は、忘れている方が非常に多いです。税務署への開業届とは別の書類で、提出先も税務署ではなく都道府県税事務所です。ただし、実務上は税務署のデータが自治体に連携されるため、出し忘れたからといって直ちに問題になるケースは少ないです。とはいえ、義務である以上、早めに提出しておきましょう。
よくある質問
Q. 開業届を出し忘れていた場合はどうすればいい?
遅れても受け付けてもらえます。罰則はありません。ただし、青色申告承認申請書の提出期限を過ぎている場合は、その年の青色申告はできません。翌年分からの適用に切り替えて、できるだけ早く提出してください。
Q. 副業でも開業届は必要?
継続的に安定した収入を得ている場合は提出義務があります。ただし、フリマアプリでの不用品販売など一時的・少額な収入は事業に該当しないため不要です。副業の収入が年20万円を超えて確定申告が必要になるなら、開業届を出して青色申告にした方が節税になるケースがほとんどです。
副業の確定申告のやり方|会社員が初めてでも迷わない手順ガイドQ. 屋号は後から変更できる?
変更届出の提出は不要です。確定申告書の屋号欄に新しい屋号を記入すれば、自動的に更新されます。屋号を後から付ける場合も同様で、確定申告書に記載するだけでOKです。
Q. 開業届の控えをなくしたらどうする?
税務署に「保有個人情報開示請求書」を提出すれば再発行できます。ただし、手数料(300円)がかかり、発行まで2~4週間程度かかります。紛失を防ぐため、提出時にコピーを取るか、e-Taxで提出して受信通知を保存しておくことを強くおすすめします。
Q. 開業届を出すのに費用はかかる?
開業届の提出に費用は一切かかりません。無料です。郵送で提出する場合のみ、切手代(84円~)がかかります。
まとめ
開業届のポイントまとめ
正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書
提出先:住所地(納税地)を管轄する税務署
提出期限:開業日から1か月以内(2025年中の開業の場合)
提出方法:e-Tax(おすすめ)、郵送、窓口持参
同時提出必須:青色申告承認申請書(開業日から2か月以内)
職業欄は具体的に記入(個人事業税に影響)
屋号は任意。後から追加・変更も可能
提出費用:無料
開業届の記入自体は10分で終わりますが、同時に提出すべき青色申告承認申請書の方がはるかに重要です。この2枚をセットで出すことが、フリーランスとしての税務スタートラインです。「開業日を決めたらその日のうちに提出」くらいの感覚で動きましょう。
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最大のメリットは「青色申告ができるようになること」です。開業届を出さないと青色申告承認申請書も提出できず、65万円控除が使えません。課税所得400万円の方なら、青色申告の有無で年間約16万円の差が出ます。開業届は提出して損することが一つもない書類です。